大分地方裁判所 昭和37年(ワ)388号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕一、集合動産が一個の物として一個の譲渡担保の目的となることを認めうるとしても、譲渡担保成立の時においては、その範囲が確定していることを要するから、範囲不確定の多数の物は一個の集合物として特定性がなく、譲渡担保の目的物となつたと理解することはできない。
二、たとえ証書上担保物件の所有権が外部関係は勿論内部関係においても当然移転するとの記載があつても、その売得金から費用を控除し、残額を債権の弁済に充当し、残額が債権額を超過するときは超過額を返戻する旨の約定があり、また弁済期後、元金の内入や利息ないし損害金を受領している事実があるときは、当該譲渡担保契約は、権利が外部的にのみ移転する、いわゆる弱き型式のものにあたると解される。
〔判決理由〕前記消費貸借契約の締結に当つて、被告代表者の代理人たる馬場宏と原告との間において、被告ホテル内にある目ぼしい動産を譲渡担保に供する旨の合意が成立したが、原告は個々の動産を調査してその数量を確かめることなく宏をして適宜に担保目的物の目録を作成させることとし、宏もまた個々の数量を調べることなく記憶をたどつてピアノ(ヤマハ製品)、スクター(ラビット)各一台、自転車(山口自転車)三台、ルームクーラー(安川製)三台、扇風機二〇台(うち三菱製一〇台、東芝製八台、富士製二台)のほか、布団(上下)二〇〇組、掛軸二〇〇点、床置物一五〇点、応接セット二〇組としていずれも概括的な割り切れる数字を掲げたものが甲第一号証記載の譲渡担保に供された物件であつた。そして右の譲渡担保契約当時に被告ホテル内には、ピアノ、スクーター、自転車は右に掲げた会社製造の物がその数量だけあつて他の物に同種のものはなかつた。しかしルームクラー(安川製)は甲第一号証では三台と記載されているが現実は一台あつたのみであり、扇風機は右に掲げた数量以下しか存在しなかつた。しかしその他の甲第一号証記載の物件は譲渡担保契約の時において、現実に被告ホテル内に幾何の数量の物があつたのか、即ち目録記載どおりの数量の物があつたのか、或はそれ以上の数量の物があつたのか結局明らかではない。
(中略)
そこで先ず被告ホテル内にある本訴物件がその構成部分を離れた一個の集合物として本件譲渡担保契約の目的物になつたと解しうるか否かについて判断すると、前認定の如く、本件譲渡担保契約成立の時に被告ホテル内にあつた布団、掛軸、床置物、応接セツトの数量は不明であり、右の種類の動産のいずれが譲渡担保の目的物となつたか確定できない。そして集合動産が一個の物として一個の譲渡担保の目的となることを認めうるとしても、譲渡担保契約成立の時においては、その範囲が確定していることを要するから、右の如く範囲不確定の多数の物は一個の集合物としての特定性がなく、従つて本訴物件全部が一個の集合物として譲渡担保の目的物となつたと解することはできない。(此の点につき原告本人は布団二〇〇組、掛軸二〇〇点、床置物一五〇点、応接セット二〇組というのは被告ホテル内に存する、その種類の動産全部の趣旨であるため、おのずから特定されているという趣旨の供述をしているが、この供述は前掲各証拠に照し採用し難い)。
次に甲第一号に掲げられた物が譲渡担保契約当時個々に特定されていたか否かについて検討すると、前認定のところから、被告ホテル内のピアノ(ヤマハ製品)、スクター(ラビツト)各一台、自転車(山口自転車)三台が個々に特定されていたことは明らかであり、またルームクーラーは現実に存在していた一台につき、また扇風機はその数量と前記各製造会社名からみて当時被告ホテル内にあつた右各会社製造の物につき特定されていたと解するのが相当である。そのほかの本訴物件は前認定のところから結局個々に特定されていなかつたと解するほかはない。
三、次に本件譲渡担保契約の内容は、権利が内外部ともに移転するものか外部的にのみ移転するものであるか、どうかにつき考えてみる。
甲第一号証の金銭消費貸借契約公正証書謄本第三条によると、原告が被告との間に本件消費貸借と同時になした譲渡担保担約では、右債務担保のため前記公正証書記載の担保物件の所有権が外部関係は勿論内部関係においても当然移転することを約して譲渡した旨の記載があるが、同第八、九条によると、被告において右債務の弁済を怠つたときは、原告は右物件を任意に他に売却し売得金より売却に関し原告が支払つた費用(この費用は被告の負担とする)を控除し、この場合残額をもつて本件債権の弁済に当することができ、この場合残額が債権額を超過するときは原告は超過金額を被告に返戻する旨の約定があり、また原告は元金の弁済期後の昭和三六年六月に被告から元金の内入として五〇万万を受領している事実(当事者間に争いがない)、証人(省略)の証言により認められるところの、原告は弁済期より一年後たる昭和三七年四月分まで被告から利息ないし損害金を受領している事実に証人(省略)の証言を加え考え合せるとき、本件譲渡担保契約は、権利が外部的にのみ移転する、いわゆる弱き型式のものにあたると解される。(中略)他にこれを左右するに足る証拠はない。(藤野英一 西池孝彦 多加喜悦男)